『ありがとう、フォルカーせんせい』【今日の絵本だより 第172回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『ありがとう、フォルカーせんせい』
パトリシア・ポラッコ/作・絵 香咲弥須子/訳 岩崎書店 本体1500円+税
11月25日は、「先生ありがとうの日」。
「1」(先生)と「1」(親・子ども)が向かい合って先生に感謝を伝え、お互いが「25」(ニッコリ)する日、なのだそうです。
『ありがとう、フォルカーせんせい』は、ある先生との出会いで人生が変わった女の子の話です。
5歳のトリシャは、本が大好き。
でもなぜか、ぜんぜん読めるようになりません。
絵は幼稚園のみんなが集まってくるくらい、とても上手に描けるのに。
小学生になっても、トリシャの目には字がくねくねした形に、数字はぐらぐらしたレンガの山にしか見えません。
「わたし、みんなと ちがうのかな。
あたまが わるいのかな。」
ママの仕事で転校した先でも、文字がうまく読めないトリシャはみんなに笑われ、いじめられてしまいます。
5年生になった時、背が高くておしゃれな先生が新しくやってきました。
名前はフォルカー先生。
先生はある日、トリシャが他の子とは文字や数字の見え方が違うことに気づきます。
「いっしょに かえてみよう。
きみは かならず よめるようになる。
やくそくするよ」
言葉や数字など、学習の中で苦手な部分、学びにくさを持つLD(学習障がい)。
生活に支障がない場合、周囲から理解されづらく、「なまけている」と誤解を受けることもあります。
フォルカー先生の専門的な支援、他の先生も交えた放課後の特訓を受けるようになって数カ月後、トリシャはある本を開きます。
「しんじられない。まほうみたい!
あたまのなかに ひかりが ぱあっと さしこんだ!」
「なにが かいてあるのか、いみも ぜんぶ わかる!」
トリシャのモデルはパトリシア・ポラッコ、これは、実は著者自身の物語。
30年経って、ある結婚式で偶然再会したフォルカー先生に、トリシャ、パトリシアは、今は何の仕事をしているのかと聞かれます。
「しんじられますか? こどもの本を かいているんですよ。
せんせい、ほんとうに ほんとうに
ありがとうございました」
不自由に気づくこと、寄り添うこと、専門的支援の大切さに気づかせてくれる、そして何よりも大きな希望を、与えてくれる一冊です。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。