『あたまにつまった石ころが』【今日の絵本だより 第161回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『あたまにつまった石ころが』
キャロル・オーティス・ハースト/文 ジェイムズ・スティーブンソン/絵 千葉茂樹/訳
光村教育図書 本体1400円+税
前回に引き続き、今回も石の絵本をご紹介。
『あたまにつまった石ころが』は、作者が娘の目から父の生涯を振り返る、実話にもとづくアメリカのお話です。
「切手にコイン、人形やジュースのびんのふた。
みなさんも集めたこと、ありませんか?
私の父は子どものころ、石を集めていました。」
ひまを見つけてはあちこちで石を探して歩く彼に、まわりの人たちは言いました。
「あいつは、ポケットにもあたまのなかにも
石ころがつまってるのさ」
大人になったら石と関係のある仕事をしたいと思いながら、
「石ころじゃあ、金にならんぞ」
と言われ、彼はガソリン・スタンドを始めます。
その店の奥に棚を作り、集めた石を並べました。
仕事は軌道に乗りますが、やがて大恐慌が起こり、店をたたむことに。
引っ越し先の古ぼけた家の屋根裏部屋にも、やはり棚を作って、石を並べました。
仕事がない日にはバスで科学博物館に出かけ、石のコレクションを眺めて過ごしました。
まわりに何を言われても、どんな境遇であっても、好きなことを手放さない。
かたくなに守り通すのではなくて、いつも自然と、頭もポケットも好きなもので埋まってしまう。
そんなに夢中になれるものに出会えたら、それはもうそれだけで、得がたい幸せなのではないでしょうか。
原題は、“Rocks in His Head”。
『あたまのなかの石』でなく『あたまに石がつまってる』でもなく、『あたまにつまった石ころが』。
「が」の一文字に、こめられた未来。
科学博物館に通うようになった彼の、巻末にさらりと書かれた驚きの後日談までが、ひとつの物語。
娘である作者の最後の一言が、深く胸に響きます。
まわりに理解されずとも夢中なものがある人にとって、この言葉は、大きな心の糧となることでしょう。
子どもにはもちろん、私たち大人にとっても。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。