2020年6月24日

『ルブナとこいし』【今日の絵本だより 第137回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『ルブナとこいし』【今日の絵本だより 第137回】の画像1『ルブナとこいし』
ウェンディ・メデュワ/文 ダニエル・イヌュ/絵 木坂涼/訳 BL出版 本体1500円+税

 今回も前回に続けて、難民キャンプが舞台の絵本、『ルブナとこいし』をご紹介します。

ルブナの一番の友達は、まあるい、すべすべのこいし。
ルブナがこの地にやってきたとき、浜辺でひろったのです。
とうさんとふたりきりで、故郷を離れて船でたどりついたこの場所には、たくさんのテントが並んでいます。
ルブナはテントに落ちていたペンで、こいしににっこりわらった顔を描き、
「こんにちは、こいしちゃん」
と、何でも話すようになりました。
お兄ちゃんたちのこと、生まれた国のこと、戦争のこと。
こいしは、いつも笑顔で聞いてくれます。
「ありがとう、こいしちゃん。だいすき」

しばらくして、アミールという男の子が新しくキャンプにやってきます。
ルブナが大事なこいしちゃんを見せて話しかけると、アミールは初めて笑顔になりました。
「こんにちは、こいしちゃん。
 ぼく アミール」
そうして仲良く一緒に遊ぶようになったふたりでしたが、ある日、ルブナととうさんはキャンプを出ることに。
新しく住む場所が見つかったのです。
そのしらせを聞いて、泣いてしまったアミール。
「こいしちゃん、わたし どうしたら いいの?」
その晩、眠れなかったルブナが、翌朝決めたことは……。

ルブナととうさん、アミールのこれまでについては深く語られず、現実のキャンプの風景も、細かくは描写されていないこの絵本。
優しい言葉と、ダイナミックで時に幻想的なイラストからは、難民キャンプのお話だということを忘れてしまうかもしれません。
大切なのは、読み手の想像力。
こいしだけが友達の女の子。
こいしがつないでくれた、小さなふたりの絆。
せつない別れと、それでもこれまでとは違う、胸の中のかすかな光。
大人でさえ説明が難しいテーマですから、たとえお子さんが物語をよくわからなくても、当然だと思います。
でも、同じ年頃の子どもたちが、こうして知らない場所に逃げなければいけないこと、ルブナとアミールのような出会いと別れが、今現在も世界中であるということを、大人が伝えてあげれば、いつかお子さんが難民のニュースを見て「あっ」とこのお話とつながる日が、もしかしたら来るかもしれません。

最初のアミールの登場場面で、小さな足元から広がる影。
それが後にどう変わったか、ぜひ親子で一緒に見てみてください。
言葉でなく絵で語る、絵本ならではの驚きが、そこに美しく広がっています。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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