『ひとはなくもの』【今日の絵本だより 第132回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『ひとはなくもの』
みやのすみれ/作 やべみつのり/絵 こぐま社 本体1200円+税
先週、新型コロナの緊急事態宣言が全国で解除されました。
ずっとおうちの中で、お子さんの泣いたり怒ったりの相手、ほとほと疲れた……というご家庭も多いのではないでしょうか。
そんな今だからこそしみじみ味わい深い、今春発売の新刊、『ひとはなくもの』をご紹介します。
すみれは、よく泣きます。
勉強していないのがみつかって、おかあさんに怒られたとき。
石につまづいて転んで、痛いとき。
ゲームで負けて、くやしいとき。
それから、おじいちゃんにこちょこちょをされて、笑いすぎたとき。
いつでもずっと、泣いてばかりのすみれ。
「『なんで そんなに なくの!』って
おかあさんは いうけれど」……、
それに続くすみれの言葉は、まさに子どもの至言。
ママもパパも、おじいちゃんもおばあちゃんも、すべての大人が必読です。
泣き顔でも温かさが伝わる絵の画家は、ベテランの絵本作家・やべみつのりさん。
最近では、『大家さんと僕』のカラテカ・矢部太郎さんのお父さんとしても知られるように。
作者のみやのすみれさんは、やべみつのりさんのお孫さん。
この絵本は、すみれさんが小学一年生の時につくった紙芝居がもとになっています。
この春中学を卒業したすみれさんは、あとがきで大人にこう呼びかけています。
「『泣くことは子どもが自分の気持ちをコントロールするための修行。だから大丈夫、ちゃんと成長しているんだな』って、少しでも思ってくれたら、うれしいです。」
そして、
「泣くことは人間にとって必要なことだと思います。それは、子どもも大人も関係ないと思います」とも。
泣くことで気持ちを出せる、落ち着ける、そして前向きになれる。
だから、
「騙されたと思って、辛いときとかに勇気を出して泣いてみてください(笑)」と。
いつもと違うこの春の数カ月、毎日少しずつ、いろんなことを我慢してきた皆さん。
大人がちゃんと頑張らなくちゃと思っていても、辛かったこともありましたよね。
ひと区切りの今、思いきって、一緒に泣いてみませんか。
だって、『こどもはなくもの』ではなく、『ひとはなくもの』なのですから。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。