2019年6月11日

『なんにもできないおとうさん』【今日の絵本だより 第56回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『なんにもできないおとうさん』【今日の絵本だより 第56回】の画像1『なんにもできないおとうさん』
ひがしちから/作 あかね書房 本体1300円+税

今年の父の日は、6月16日。
おとうさんの絵本を読むとしたら、何がいいでしょう。
いろんなおとうさんの絵本の中でも、一段と目を引く、こんなタイトルがありますよ。
『なんにもできないおとうさん』。

 元気な女の子のみーちゃんが、まだ寝ているおとうさんに乗っかって、
「おきろー!」
今日はふたりで公園へ行く約束をしているのです。
「もう、おとうさんたら みーちゃんより
 はやく おきられないの!」
おとうさんはみーちゃんより大きいのに、できないことがたくさんあります。
みーちゃんみたいに、三輪車を上手にこげません。
ねことお話もできません。
公園の生垣の、秘密のトンネルもくぐれません。
すべり台もすべれないし、砂場で楽しく遊ぶこともできません。

「もう、おとうさんたら なんにも できないんだから!」
言われっぱなしのおとうさんには気の毒ですが、ふたりの風景がなんともほほえましくて、読んでいるこちらも頬がゆるんでしまいます。
いろんなことができるよと、自信満々のみーちゃん。
公園で宝物も見つけられるし、ちょうちょと一緒に踊ることもできる。
転んだって、ひとりで立ち上がって。
こんなに立派な物言いもできて、何のてらいもなく自分を誇れるのは、おとうさんへのまるごとの信頼があってこそ。
娘と父の、何の遠慮も忖度もない関係が、ちょっとうらやましい。

ひがしちからさんの描く子どもは、いつも子どもそのものの明るさに満ちていて、あたたかい肌のにおいがするようです。
赤ちゃんだった頃からこれまで毎日、少しずつ成長を重ねての、公園での平和なひととき。
何でもないような時間は、何にもかえがたい宝物。
自分もこのおとうさんになって、みーちゃんに
「なんにも できないんだから!」って言われてみたいなあ、なんて思います。
子どもからこんなにまっすぐな言葉を投げられる時間は、いつのまにか過ぎてしまうもの。

みーちゃんを、慣れた様子でひょいと肩車して、帰るおとうさん。
最後にみーちゃんから、素敵な約束をしてもらいましたよ。
こんなことを言われたら、父の日のプレゼントよりも、うれしいのではないかしら。
最後のページの、少し頼もしそうなおとうさんの後ろ姿に、じっと見入ってしまいます。
裏表紙のふたりの姿も、どうぞお見逃しなく。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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