『かぶきやパン』【今日の絵本だより 第33回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『かぶきやパン』
かねまつすみれ/作 長野ヒデ子/絵 童心社 1430円
2月20日は、歌舞伎の日。
歌舞伎って身近でないし、ちょっとわからないなあ、という人も多いと思うのですが、ちょうど一年前の歌舞伎の日に、こんな絵本が出たんです。
『かぶきやパン』。
本日開店のパン屋さん、その名も「かぶきや」。
パンたちが歌舞伎の舞台にずらりと並んで、
「とざい、とーざい!」
とご挨拶。
客席からは
「まってました!」
の声。
さあ、パンたちの歌舞伎がはじまります。
「とわれて なのるも おこがましいが、
うまれは 『かぶきや』 いしのかま」
と、最初におでましの伊達男は、クロワッサンのみかづきすけろく。
続いて、しゃなりしゃなりと現れたのは、かぶきやこまちの町娘、あんこちゃん。
「パンのことなら、あんパンあんこに……
おまかせくださりーませー!」
あんこちゃんに声をかけるみかづきすけろくに
「まちねえ、まちねえ」
と割って入ったのは、かぶきや五にんおとこ。
五人を知らない様子のすけろくに、
「しらざあ
いってきかせやしょう!」
どんなふうに読もうかなんて、心配はご無用。
歌舞伎に詳しくなくても、やはり日本人、どこかで聞いたことのあるセリフは、それっぽく読めてしまうもの。
もともとは庶民のためのお芝居だった歌舞伎なんですから、肩ひじ張らずに、好きに楽しんでいいんです。
「いきだねえ!」
「にっぽんいち!」
などのかけ声は、お子さんに読んでもらうのも楽しそう。
舞台の上には、パンの花形役者が次々に登場。
格好良く見得を切ったり、「いよっ! たっ! たっ! たっ! たっ!」と花道を進んだり。
すっかり歌舞伎の雰囲気を満喫した気になるのですが、思えば役者はみんなパンというのも、愉快なところ。
読んだ後は、粋な歌舞伎言葉がクセになるかもしれませんよ。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。