舞台観る感動を子どもと一緒に! 宮本亞門さんに聞きました
この1年、舞台作品を上演する機会が減っています。それでも、演劇や劇場の素晴らしさを改めて感じてほしいという思いから、日本を代表する演出家の宮本亞門さんと、「どーもくん」や「こまねこ」を手掛けるストップモーション・アニメーション制作スタジオのドワーフ、「ピーターパン」などのミュージカルも手掛けるホリプロが、オンラインで楽しめるオリジナルミュージカルショートムービーを作りました。
人形を動かし、こま撮りと操演を組み合わせた手法により制作されたショートムービー「ギョロ 劇場へ」。完成を記念して、構成・脚本・歌詞を手がけた宮本亞門さんに、ミュージカルの面白さについて伺いました!
Q. 孫とおじいちゃんの心あたたまるエピソードを、おばあちゃんの形見のオペラグラス、ギョロに託したのには、どんないきさつがあったのでしょうか?
ミュージカルは“夢のファンタジー”ではなくて、子どもたちが自分と重ねるものとして観てもらいたかったのです。オペラグラスのギョロくんはハチャメチャで、いたずらっぽいシーンを楽しんでもらいたくて。手作りの人形が愛おしく、劇場とリンクしていったらいいなと思いました。おうちでこの作品を観て心の奥に染み入るものを感じてもらえたら。
Q. ストップモーション・アニメーションと操演という、舞台演出とは異なる方法でミュージカルを作られてどうでしたか?
人を信じたり、人を愛したり、いろんなことを想像したり。そうすればきっといい世界になるよ、という幸せな思いが受け継がれていくことを表現できたと思います。毎日、子どもにとっても、大人にとっても大変なことがあるけれど、劇場に行こうと思うとニコニコしちゃう。そんなおばあちゃんとの思い出が描かれています。ママは、おばあちゃんと一緒に劇場に行ったことがあるという設定です。
でも、主人公のタクトは劇場に行ったことがない。タクトはおばあちゃんっ子だったから寂しいなとおばあちゃんの写真を見ているのですが、おじいちゃんから「おばあちゃんが一番幸せな時は、劇場に行くこと」と聞いて、想像を膨らませていきます。そしておばあちゃんのオペラグラスのギョロくんがタクトと友達になる。思いが受け継がれていくといいなという気持ちを込めて作りました。
Q. コロナ中に、気づいたことやされていたことなども聞かせてください。
まさに今回の作品も新たなチャレンジです。ファンが多い作品では劇場に人が集まりますが、そのほかはお客さんが入らなくなって厳しいのが現状です。日常の中でYouTubeを通じてこの作品と出会ってもらえたら。気持ちを少しでも軽くしてもらえたら嬉しいですね。先が見えなくて不安な時代だからこそ、希望だとか夢を持っても大丈夫と伝えたいと思っています。挑戦は楽しいものです。
Q. 宮本さんが舞台の魅力にはまったのはいつでしたか?
私は高校生の頃、一年間引きこもっていた時があって、暗い子でした。ある時、ふと、オペラやミュージカルのレコードを聴いて、悲しい曲のおかげで泣けたんです。音楽が寄り添ってくれた。あの感覚が演出家か映画監督になりたいと思わせてくれたんですね。お芝居もそうだし、エンターテインメントというのは、勇気をくれるという気持ちが私の中にありました。
今の子どもやお母さんにも、いろんなものを見てほしいんです。一緒に観て、心が揺さぶられることで、共にいろんなことを想像できる。見たことのない世界へ飛んでいけます。イマジネーションを広げることって、今後の世界に必要なことで、頭を柔らかくするきっかけとして、演劇は最高の材料だと思います。私は人とのコミュニケーションがうまくできない子どもだったけれど、演劇や音楽が救ってくれた。世界は本当にカラフルでいろんなことがありますから。
Q. テレビやネットではない、舞台でしか味わえないことってどんなことですか?
そこに生の人がいるっていうことですね。それが大きな劇場であれ、小さな劇場であれ、耳で聞くことだけではなく五感、六感に響いていく。子どもたちは感受性が豊かだから、心を込めて歌ったものがぎゅっと胸に刺さると思います。お母さんにハグされたりだとか、触られたりするような温かさが劇場にはあるんですよね。劇場から出てくるときに気持ちが変わると、皆さんの顔が全然違うんですよ。嬉しそうな表情やなんだか気持ちよくなった!という幸福感は、舞台ならではの格別なものだと私は思っています。
Q. これから子どもにおすすめしたい舞台があれば教えてください。
今年40周年の「ピーターパン」を是非観てほしいです。皆さんが安全に劇場に足を運んで頂けるように工夫しています。遊ぶところがなくて、ストレスが溜まっちゃっているはずなので、舞台を観て、すっきりしてもらえると嬉しいです。ぜひ、ギョロくんのようなオペラグラスを持ってきて追体験してもらえたら。舞台の敷居は本当に低いので、心をオープンにしていらしてください。
「夢を醒めさせないというのも、私たちの仕事ですから」と最後にお話ししてくださった宮本亞門さん。ぜひこちらのショートムービーを観て、親子で劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか?
©HoriPro/dwarf
取材・文/吉村有理江
みやもとあもん/演出家。2004年東洋人初の演出家としてオンブロードウェイにて「太平洋序 曲」を上演、同作はトニー賞4部門でのノミネートを果たす。 ミュージカルのみならず、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎等、 ジャンルを越える演出家として、国内・海外で精力的に活動。 2020年、新型コロナウイルスと闘っている医療従事者、 また部屋で不安を抱えいる人たちに、少しでも希望を感じてもらいたいと 発足した「上を向いて歩こう」プロジェクトを展開。「ギョロ劇場へ」では 構成・脚本・歌詞を担当。