絵本が授業の教材に! 子どものやりたいことから広げていく、竹早小学校のユニークな授業の進め方
――「お絵かき生きもの図鑑」の応募作品でも感じたのですが、竹早小の子どもたちの絵は、シチュエーションを考えて物語のように描いたり、吹き出しをつけてしゃべらせたりした作品が多い印象があります。こういうことは指導をしているのですか?
曽根:指導というより、お話を考えるのが好きな子が多いからかもしれません。国語に創作という学習活動がありますが、1年生には難しいので、国語の教科書にのっているのは、1コマ目と3コマ目のお話の絵があって、2コマ目を考えてみよう、というように簡単なものなんですね。でも、子どもたちはゼロから作りたいと言うので、まずは「やってごらん」と言いました。実際に作ってみると、やっぱり難しい。そこから、参考になる本を探そうということになりました。「わんぱくだん」のシリーズ(ゆきのゆみこ・上野与志/作、末崎茂樹/絵 ひさかたチャイルド)は、話の流れがわかりやすいので、いい資料になりました。「こうやって始まるんだ」「こんなふうに事件が起きるんだ」と、起承転結を読み取る教材へと繋がりました。
その後、竹早祭という学習発表会のような行事で、『100かいだてのいえ』(いわいとしお/作 偕成社)を参考にした、35階だてのサンタの家に登場人物が生き、ダークサンタをたおすという絵本を作りました。子ども35人がそれぞれ、部屋番号と階段と自分を描くということだけを条件にして、あとは自由に家を描きます。みんなのびのびと描いていましたね。ペンを使ったり、色鉛筆を使ったり、実際に手を動かしていく中で、自分がうまく表現できる画材を選んでいきました。絵にそれぞれの個性がすごく出ていると感じました。
創作のときは、「作るときにまず考えなきゃいけないことは何だろう?」ということを、みんなで話し合いました。子どもたちそれぞれが、クラスみんなで作るには何が大事かを書き出して、共有していきます。35人それぞれが意見があって話し合うと時間がかかりすぎて大変なので、みんなの意見をまとめたものを全部打ち出して、コピーを配ることが多いです。その情報の中から、比較してどれを選ぶのかなどを一緒に考えていきます。
――子どもの書いたものを全部打ち出してまとめるというのは、先生は大変な労力ですね。
曽根:確かに大変なんですが、その子がどういう考えを持ってるかをわかった上で話を聞くのと、何もわからないので聞くのとでは全然違うんです。高学年になると文章量も多くなってくるので、大変なんですけどね(笑)。これからはGIGAスクール構想※で、生徒に一人一台パソコンがある時代になりつつあるので、もし子どもが意見や感想をパソコンで打ってやりとりできれば、作業はだいぶ楽になると思います。子ども同士でも、この子はこういう考え方を持っているんだというのがわかるので、「おもしろいな。ちょっと話しかけてみようかな」というきっかけになったりするかもしれません。
※GIGAスクール構想…文部科学省による、各学校児童生徒向けの1人1台の端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するという5年間の計画
――曽根先生は国語教育を専門にしていらっしゃいますが、こういうカリキュラムを考えたのはどうしてですか?
曽根:私は、もともとの専門は小中の社会や生活科・総合学習だったんです。でも小学校ではいろいろな教科を教えなくてはなりません。どうやったら国語を楽しく、しかも言葉の力がつく授業を展開することができるのか、悩んでいました。小学校で国語の授業を受けたからといって、本が好きな子どもになるとは限りません。「ごんぎつね」を扱っても、じゃあ新美南吉の他の本を読んでみたい、とはなりにくいのが現状です。これでいいのか、と考えて、教材をアレンジするなど試行錯誤するようになりました。一人称で書かれた本を、三人称に書き換えて比べさせてみたり、伝記を肯定的に書かれたものと否定的に書かれたものとを用意して、子どもたちに考えさせるということもしています。
絵本を教材にすることはそういった試行錯誤の中に思いついたことです。この学校では、子どもたちを見て、この子たちならどういう教材で、どう教科内容とリンクできるかを考えていけるので、それをありがたいことだと思っています。想像力豊かな子に育つために、小学校の段階で何をしてあげられるのか、日々いろいろなことを考えています。
※撮影/花田梢 取材・文/日下淳子