2025年8月12日

俳優・香椎由宇さんインタビュー「運動してばかりの幼少時代に祖父が読み聞かせてくれた絵本は、今でも大切に読んでいます」

小学6年間をシンガポールで過ごし、帰国してから中学生で芸能界デビューした香椎さん。多数の話題作に出演しながら、20歳で結婚。出産と育児を経て数年前から映像作品に復帰しています。18歳の時に出演し、自身の転機になったという映画『リンダ リンダ リンダ』が、4Kデジタルリマスター版として公開。改めて作品を観て感じたことや当時の話を、幼少期の思い出とともに伺いました。

かしいゆう/俳優。1987年生まれ、神奈川県出身。小学校6年間をシンガポールで過ごしたのち、雑誌『mc Sister』のモデルとしてキャリアをスタート。その後女優として活動し、2005年『ローレライ』で映画デビュー。同年『リンダ リンダ リンダ』では、第29回山路ふみ子映画賞新人女優賞を受賞。2025年秋に公開の映画『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』に出演予定。

リズムが大好きで
繰り返し読んだ絵本

――香椎さんが高校生の時に出演され、今回20年ぶりに4Kデジタルリマスター版として蘇る映画『リンダ リンダ リンダ』は、まさに等身大の作品だったのではないでしょうか。そんな青春の真っ只中にいらした頃よりさらに前の幼少期は、どのようなお子さんでしたか?

じっとしていない子でした(笑)。体を動かすことが好きで、ソフトボールや水泳、テニスといろいろな運動をしていて。外で遊んでばかりの活発な子でした。

――今日は、小さい頃に好きだった絵本を含めて、おすすめを持ってきていただきました。

自分で本を読むことはあまりありませんでしたが、祖父がよく絵本を読んでくれたんです。なかでも、ドクター・スースのシリーズが大好きでした。繰り返しの言葉が多く出てきて、リズムがすごく好きだったんです。『THE CAT IN THE HAT』は、自分の子どもにも読み聞かせたんですが、絵が怖いって最初は嫌がっていましたね(笑)。私自身が好きなので、今でも手元に置いています。『こっきえほん』は、小さいころの自分がほしかったなと思う本。小学生までシンガポールで過ごしていたので、まわりにいろいろな国の友達がいて世界に興味があったんです。この本は、国旗といっしょにその国の正式名称や首都名、人口を紹介してくれていて、これがあったらもっと楽しかっただろうな、と。

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――こちらの『100円たんけん』もおもしろそうですね。

子どもが読書感想文を書くために選んだ一冊です。最近の子どもたちってPayPayのような電子決済を使うことが多くて、現金を手にすることがほとんどないんです。なので、100円の価値を書いているこの本はいいなと思って。100円でどれくらいのものを買うことができるのかを見せてくれるんですが、とてもおもしろい。これとこれが同じ100円なのかと思うこともあれば、100円でこれだけ? こっちはこんなに? とか。読んだ後に子どもと買い物に行って、豚肉の量り売りを見てへーって思ってくれていたみたいです。

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『100円たんけん』 中川ひろたか/文 岡本よしろう/絵 くもん出版 1430円

――なるほど、確かにお金の価値を考えることって意識しないとできないですね。一方で、『みんなで楽しむ 多面体おりがみ』の本も、かなり読み込んだ感じが出ています。

これを見ながら、めちゃくちゃ作らされたんですよ(笑)。私がパーツを作って、子どもたちが組み立てて立体にする。ひたすら私はパーツだけ。移動中の新幹線ではとても助けられました。移動中って子どもは飽きちゃいませんか? でもこの本があればずっと作って組み立ててと飽きずに時間を過ごせたのでおすすめです。

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『みんなで楽しむ 多面体おりがみ』 布施知子/著 日本ヴォーグ社 ※現在は電子書籍での取り扱いのみ

――お子さんたちが小さいころは、よく読み聞かせをされたりもしたんですか?

子どもってすぐ覚えちゃうから、私のほうが読んでもらっていました(笑)。もはや、読み聞かせるよりも、読んでくれることの方が多かったですね。私自身は幼いころは運動してばかりで、本をよく手にするようになったのは高校生くらいからです。

青春の擬似体験ができた
大事な作品

――まさに『リンダ リンダ リンダ』のころですね。改めて作品をご覧になって、いかがでしたか? 当時のことを思い出したりもされたのではないでしょうか?

もう本当にいい作品に出させていただいたな、と。当時は「私たちの青春をみんなが見ている」という感覚で、ちょっと恥ずかしいような気持ちもあったんです。でも、今改めて見ると、こんなすばらしい青春をおくれた私、どうよ、うらやましいでしょう?って気持ちです(笑)。

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――本当にうらやましいです(笑)。当時とは見る目線が変わったということですか?

そうですね。時間も経っているし、一度世の中に出しているものだし、私も年齢を重ねたし、いろいろな要素があって単純に「めっちゃいい映画じゃん!」って心から感じます。当時は「取材を受けるからしっかり観ておこう」とか「どこを観てもらいたいか話せるように」という視点で観ていたことも。だからやっと作品を客観的に「ちゃんと観れた」感じがあります。

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© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

――当時の香椎さんは、演じていた立花恵と同じ高校生でした。撮影当時にはどんな思い出がありますか?

合宿みたいでとにかく楽しかったという思い出ばかりです。先日、スタッフさんと集まった時に「タイトなスケジュールで大変だったよね」という話が出ていたのですが、そんなことは全然覚えていなくて(笑)。撮影中はバンドのメンバーといっしょにホテルに滞在して練習して、ずっと4人いっしょに過ごしていました。当時は仕事をしていて自分の文化祭には参加できなかったし、映画のような青春を送れていないような状況だったので、この作品のなかで擬似体験させていただいたんだと思います。仕事とはいえ、どれだけ恵まれていたんだろうかって思います。

「何もない」シーンに
キュンとする

――今改めて振り返ってみて、香椎さんのなかで「リンダ リンダ リンダ」どんな存在ですか?

仕事への向き合い方を学んだ作品だと思います。特にペ・ドゥナさんの演技に対する姿勢は、とても勉強になりました。彼女が演じたソンさんってぼーっとしているというか、間の抜けているところがある役じゃないですか。そういう演技を彼女は全力でダサくやるんです。転ぶときなんて、本当にめちゃくちゃダサい。当時の私は、そういうダサさをいかに見せずに鎧をかぶって頑張るかということばかりを考えていました。でも、そういう鎧みたいなものを全部脱ぎ捨てたら、逆にものすごくかっこいいんだということを目の前で見せてくれたのが、ペ・ドゥナさんだったんです。ほかにも、自分以外の役柄のオーディションに参加させていただいたりして、初めてづくしのことがたくさんありました。映画制作の現場を間近に見つつ、作品ってこうやって作っていくのかと肌で感じられた作品だったと思います。

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――そうだったんですね。好きなシーンや、観てほしいシーンはどこですか?

改めて観ると「何もない」シーンが多い作品だと感じました。土手を歩いているだけとか、放課後の下駄箱だけとか、屋上にいるだけとか。そういう何もないシーンにキュンとしてしまうんです。今はもう屋上には出られない学校が多いと思うんですが、ある年代の方は「あのころは屋上に出られたよねー」って思い出すだろうし、「うわ、うちも文化祭は雨だったな」とか「片づけるの大変だったんだよね」って感じる方もいるだろうし。女子だけで階段を上がっているとパンツが見えても気にしないとか(笑)。私は、ペ・ドゥナさん演じる、ソンさんが「パンツ見えてるよ」って言うシーンが特に好きでした。そういう日常の一つひとつにキュンとする。きっとどんな方にもそう感じ取れるシーンがある作品だと思っています。

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INFORMATION

『リンダ リンダ リンダ 4K』

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© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

2005年に製作した青春映画「リンダ リンダ リンダ」の公開20周年を記念して4Kデジタルリマスター版化。ぺ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織(Base BallBear)らが出演する本作は、高校生活最後の文化祭で「ザ・ブルーハーツ」のコピーバンドをすることになった少女たちの奮闘を描く。当時は、山下敦弘監督が自身初の35ミリフィルム作品として撮りあげた。4Kデジタルリマスター版では、35ミリの質感は残しながらも、細部をクリアにすることで、誰もが心に抱く青春の記憶がより一層せつなく鮮やかによみがえる。

監督:山下敦弘
出演:ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織(Base Ball Bear)、三村恭代、湯川潮音、山崎優子(新月桃花/RABIRABI)、甲本雅裕、松山ケンイチ、小林且弥
配給:ビターズ・エンド 
©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

2025年8月22日(金)  新宿ピカデリー、渋谷シネクイントほか全国ロードショー
bitters.co.jp/linda4k

インタビュー/晴山香織 撮影/近藤沙菜 スタイリング/大園蓮珠 ヘアメイク/小浜田吾央

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