子育てと食べること、そして母としての思い【写真家・繁延あづささん&KIKIさんトークショー】
kodomoe本誌での写真撮影をはじめ、kodomoe webの写真投稿連載「みんなのコドモPHOTOギャラリー」の審査員をつとめる、写真家の繁延あづささんが10月2日に書籍「山と獣と肉と皮」を出版されました。著書には、3人の子どものママでもある繁延さんが、長崎と佐賀の里山で猪と鹿の狩猟に密着した4年間が写真と文章で記録されています。
先日、その発売を記念してトークショーが開催されました。モデルのKIKIさんとのトークショーのようすをご紹介します!
子どもに
食べさせていかなきゃいけない
KIKI:私自身も山が好きで、山小屋のご主人にお肉を分けてもらったり、知人にも狩猟をする人が何人かいて、その方たちからお肉をもらったりもしています。
繁延:そういう話を以前から聞いていたので、何の違和感もなく、今回はKIKIさんとお話がしたいと思いました。
KIKI:繁延さんには3人お子さんがいらして、私にも2歳の娘がいるんですが、娘が生まれてからはママ友の会話もできるようになりました。
子どもが生まれてからは「食べさせていかなきゃいけない」という気持ちが自分自身にも生まれたので、繁延さんの向き合っているものの受け取り方が、同じ“母親目線”という近い目線で見えるようになったと思います。
繁延さん自身が狩猟をしているわけではなく、近所のおじさんにもらっシシ肉が「家族の今日のごはんになる」という、その分かりやすい直接的な感情はすごく理解できます。
繁延:嬉しいです。狩猟現場や野生肉を料理しながら、母として感じることは多かったけど、ママ友には言ったことがなかったんです。「え!?」って思われると思って。だからそう言ってもらえて、すごく嬉しいです。
野生の肉をくれる
おじさんとの出会い
繁延:私は2011年に、東京から長崎へ家族で引っ越しをしました。そこでたまたま猟師のおじさんと出会ったんです。
私たちがほぼ無職みたいなかたちで引っ越しをしたので、野生肉なんて今まで食べたことがないのに、肉をいただけるというので「やったー!」という気持ちで、何の抵抗もなくいただきました。
KIKI:野生肉とは初めての出会いだったんですか?
繁延:はい。家族みんな興味津々で、キャーキャー言いながら脚をさばいたりして食べました。
KIKI:町の中で一番最初に猟師のおじさんに声をかけるという、なかなかできない出会い方ですね。繁延さんから声をかけて、「肉はいるか?」と言ってもらって、野生肉をもらうようになる。繁延さんのその受け幅の広さというのは昔からですか?
繁延:そんなことはないです! たぶん引っ越しをして心細かったから、近所付き合いが始まっていく感じが嬉しかったんです。関わっていきたいという気持ちでした。
KIKI:そんなときに、一番声をかけにくそうな人にかけているのが、すごくいいなと思いました(笑)
繁延:興味がわいちゃったんですね。長崎は坂の町で、我が家は駐車場に車を置いたら細い坂を通って家に帰るんですが、いつも細道ですれ違う人や同じ駐車場を使う人とは、自ずと挨拶をかわすんです。だから、おじさんとも顔見知りにはなっていました。
おじさんは、いつも赤やピンクの洋服を着て、ギラギラしたチェーンのネックレスや指輪を付けていました。溶接して不思議なものを作っていたり謎な行動で、ずっと気になっていました。
それで、あるとき急に声をかけてみたくなっちゃったんです。
KIKI:すれ違う距離が近いから、お互い気になる存在なんですね。
繁延:長崎の町は、人と人が接するようにできているように見えます。私たちは東京から引っ越したので、それも新鮮で面白いなと思っています。
ソーセージから
骨付き脚1本に!
KIKI:最初にお肉をもらったときは、実際にどのくらいの量だったんですか?
繁延:最初は控え目でした。当時は家族4人だったので4枚分の鹿のステーキと、いのししのソーセージという、食べやすい状態でいただきました。
「すごくおいしかったよ!」と伝えたら、次はヒレ肉やロースなどのかたまりでくれました。それも「おいしかったよ!」と伝えたら、その次は大きい脚を1本くれました。
KIKI:骨が付いた状態ですよね?
繁延:もちろん! もちろん!
分解しないことには、まな板にも乗らなくて。最初はそんなことも、どこか「新しいコトがはじまった」という感覚でした。引っ越したばかりでテンションが高かったというのもあったかもしれません。高くないとできなかったと思いますが……。
そして、たぶん私たちに仕事がなかったのは大きかったのかなと思います。もちろん貯金はあるので一文なしではありませんでしたが、「仕事もなくてどうやってこれから子どもたちを食べさせていこう」というときに肉をもらったことで、「ああ、今日はこれで買い物に行かなくていいんだ」と、生きていくために肉を欲した感じはあったかもしれません。
KIKI:直接的ですよね、「食べるもの」というのは。
繁延:そうですね。そのような状況での「肉」だからより積極的な気持ちになれていたのかなと思います。
KIKI:猪をつかった料理の味はどんなものでしょうか。
繁延:ほかのお肉とはやっぱり違いますね。「おいしい」の一言では済ませたくないです。
日常的に食べるので、餃子にしてお弁当にも入れますし、ベーコンにもします。ベーコンを台所で切ってると、みんなが寄って来てつまみ食いをし始めて、私もビールを出してくるという感じですね。おいしいです! 「おいしい」になっちゃった(笑)
家族に料理することは
命の流動の一部だと感じます
繁延:狩猟のようすを撮ることは、写真家としてだけでなく母親としても感じることがすごく多かったです。山に行って、生き物を殺して、食べ物になって、持って帰るというのは、命の流動を見ているようなもので。私が家族に料理することは、その流動の一部なんだと感じたりもします。
だけどいっぽうで、そんなことしているなんて、変な人に思われそうだから日々のブログにはあまり詳しくは書けないなと思っていました。
KIKI:ブログといえば、書籍の中で「抗生剤が投与されていない肉だから安心ですね」と言われた話が出てきました。
人間によって管理されていない肉は、食べたことによる結果が未知だと思うのですが、ブログに書くことで、たくさんの人が知ることなり、中にはそういう肉を家族に食べさせることに対して心配する声があるかもしれない。私だったらそういう声を気にして書けないかもしれないと思うのですが、周りの声はストレスには感じなかったですか?
繁延:私のブログは、そんなに読む人がいないからそこまでではないですが(笑)
あまり「良い」「悪い」とか関係なく食べています。ただ、最初は好奇心で食べ始めましたが、それがずっと続いているわけではありません。
例えば本の中で「肉は安全じゃないかもしれない」ととらえるようになった変化を書いてます。だんだん「管理されていないってどういうことだろう」「山の中で自由に動きまわって、何があるか分からないものを食べているってどういうことだろう」と考えるようになりました。
反対に、おじさんが山でさばいているようすを見ているから「おじさんの肉は食べられる」と、あらためて信頼できた部分もあります。
台所で肉をさばきながら、感じることや考えることなどの変化に慣れっこになる前に書きたくて書き始めたのが、この本の最初です。
KIKI:慣れっこになりつつありますか?
繁延:本の最後の方ではだいぶ慣れっこになっているかもしれません。でも山に行けばいつも新しい発見があります。