10月のテーマは「どんぐりの絵本」【広松由希子の今月の絵本・35】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
10月のテーマは「どんぐりの絵本」
ころころちっちゃなどんぐりは、
かわいくて、つい感情移入してしまいます。
友達のようだったり。
自分のようだったり。
『どんぐりしいちゃん』は、
秋色でシックに彩られた絵本。
クリーム色とセピアの柔らかい画面で、
ひとりピンクのしいちゃんに、ぱっと目がいきます。
歌って踊って楽しく暮らすどんぐり村で、
ひときわ元気なのが、しいちゃん。
しいちゃんが踊ると、
みんなもうれしくなって、
コロコロコロと踊り出します。
そんな無邪気なしいちゃんの心に、
芽生えてしまった女心?
カラスのカースケさんが集めているという
「すてきな ぼうし」
という言葉が、気になって仕方ありません。
しいちゃんは、自分の帽子と引き換えに、
カースケさんの宝物をひとつ、
選ばせてもらうことに。
「あたしに ぴったりの すてきな帽子はないのかなぁ」
あれこれ試したしいちゃんが、最後に行き着いたのは?
予想に応える、安心の結末。
コロコロ変わる表情に、小さな読者の顔もつられそう。
『どんぐりしいちゃん』
かとうまふみ/作 教育画劇
本体1000円+税 2005
『まいごのどんぐり』は、
どんぐりの視点から人との交流を描いた、
ありそうでない、どんぐり絵本です。
「コウくんは
もう ぼくのことを
わすれてしまった
ようなのです。」
月日が流れ、成長していくコウくんに
声にならない声で、語りかけるケーキ。
周囲の環境が変わり、姿が見えなくなっても、
コウくんを思うケーキ。
そして……
松成真理子さんの初めての自作絵本には、
やさしい思いがいっぱいこもっていました。
流れる時間に身を沈め、
あたたかな情緒にひたひたと浸って読んでいくと、
最後には、清々しい笑い声が心に響きます。
「うれしいことです。
うれしいことです。」
秋がくるたびに読みたくなる一冊。
親子でも、ひとりでも、どうぞ。
『まいごのどんぐり』
松成真理子/作 童心社
本体1300円+税 2002
『どんぐりかいぎ』は、
科学をベースに、想像をふくらませる物語絵本。
北の国のどんぐりの森では、
どんぐりがたくさんなる「なりどし」と
少ししかならない「ふなりどし」が
一年おきにあるそうです。
どうしてこんな現象があるのか?
その背景には、
どんぐりの親(=木)たちの
こんな真剣な会議があったんですね……
「このままでは、われわれ どんぐりのきは としとって、
みんな しにたえてしまう」
「どうしたら あとつぎの こどものきを
そだてることが できるだろうか」
どんぐりの木たちは集まって、
会議を重ねます。
ところが、ところが?
どんぐりの子(実)や、動物たちは野性のまんま、
親(木)だけが擬人化されて描かれます。
子を育てるために、一生懸命な木の表情が面白い。
物語を楽しみながら、大きな自然の営みが見えてきます。
『どんぐりかいぎ』
こうやすすむ/文 片山健/絵
福音館書店 本体900円+税 2002
ひと粒のどんぐりから広がる
空想や物語、愛情や科学の芽生え。
拾って、集めて、いとしんで。
親子で秋を楽しんで。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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