美しくておいしそうな木版画にうっとり。夢眠ねむさんが、彦坂木版工房さんと対談。【夢眠ねむの絵本作家に会いたい!・1】
大人目線の「面白くない」は言わない
もりと 僕は読んだ後に、「あれはよかったよねー」とか、横になって目をつぶりながらしゃべるよ。で、「あそこのさ、本当はああだったんじゃないのかな」とか言いながら、なんとなく絵本が頭にあるまま寝ていく、って感じかな。
絵本の専門書に、「読んだ後に質問はしないで、読後感を大切にしてあげてください」みたいなことも書いてあるけど、自分は「面白かったでしょ、ここがさ」とか、「ほら見て、後ろにこういうのあるんだよ」とか、つい言っちゃうし、言ってもいいんじゃないって思っちゃう。親子でお互いの感想や考えを言い合うのは、いいんじゃないかなって。
彦坂 私も自分の感想を言う派だな。でも、マイナスな感想はあんまり言わないようにしています。あくまで私の感想だから。
夢眠 本当に、映画の帰り道と一緒ですよね。感想を言う派の人と、言わないで、ファミレスで飲みもの飲んで帰る人、みたいな(笑)。おうちによっても違いそうですね。
もりと 大人としてね、「微妙だな」とか、「これってもうちょっと……」って思っても、子どもが「面白かったね」って言ったら、「やっぱ面白かったよな」ってなる。
「面白くない」って言っちゃうと、もうそういう絵本って思われちゃうからね。
夢眠 いらんこと言わんとこう、みたいなことですよね。私も、「脳にいい」とかうたっている絵本は、前はなんとなく避けていたんですけど、そういう絵本を息子がもう目をキラキラさせて見ているので、「あ、この本、面白いんだ」って思い直して、仕入れています。最近は。子どもの気持ちを尊重して。
今も胸に残る絵本の記憶
夢眠 おふたりが子どもの頃の、絵本の思い出はありますか。
彦坂 私はよく覚えているのが「バーバパパ」シリーズ(アネット・チゾン、タラス・テイラー/作 やましたはるお/訳 偕成社、講談社)。あと、小学生になると、夏休みにラジオ体操があるじゃないですか。朝6時とかに近くの公園に行って。朝早いし眠たいし、やだなと思うんですけど、ラジオ体操の後に「絵本読んでいいよ」という時間があって。私はそのために頑張って行ってました。田舎なんで、公園もめっちゃ広いんですよ。木の太い幹の根元に、確か絵本が置いてあって。いわむらかずおさんの「14ひき」のシリーズ(童心社)とか。
夢眠 もう、その場面自体がまるで絵本みたいな、夢の環境ですね。青空図書館みたい。「14ひき」はまさに、登場人物のねずみ感覚で読めますね。
彦坂 確かにそう。それを読みたくて、ラジオ体操に行ってましたね。
もりと 僕が子どものころよく遊んだのは、『おみせやさん』(五味太郎/作 ほるぷ出版 現在品切)って大型パノラマ絵本。
夢眠 わあ。広げると、商店街になるんだ。結構、大物ですね。
もりと そう、畳の部屋で広げて立てて、その中に入ってずっとお店屋さんごっこをしてました。それから、小学校の時に『ワニくんのおおきなあし』を読んでました。
『ワニくんのおおきなあし』
みやざきひろかず/作・絵 BL出版
僕は昔、アレルギーがいろいろあって、給食が食べられないので毎日弁当を持っていってて。みんなと違うお昼ごはんを食べるのが、「やだな」みたいな気持ちがあって。
このワニくんは、みんなより足がずいぶん大きいんですよね。だから足を踏まれたり、からかわれたり。小さくしたいと冷やしてみたら、よけいはれちゃったり。 でも、よく考えたら、良いこともいっぱいあるなと。台風のときも地面をしっかり踏めるし、泳ぐのも速いとか。
マイナスをプラスにする。なんていい絵本だって、もりと少年は思ったんだよね。僕のアレルギーも別に悪くないな、みたいな。実際、後になって給食が食べられるようになってわかったんだけど、お弁当の方がおいしかった。みんなと違う居心地の悪さを、解消してくれた絵本ですね。
夢眠 へー、これ、めっちゃいい本ですね。私も今度、お店に仕入れよう。
もりと あと今は大人の趣味で、骨董系の絵本を集めるのが好き。初期のクロス装の『ちいさなうさこちゃん』(ディック・ブルーナ/文・ 絵 いしいももこ/訳 福音館書店)とか、いわさきちひろさんや赤羽末吉さんの昔の作品とか。自分たちの作る本も、ずっと昔から本棚に刺さっていたような、飽きのこない内容やデザインにしたいんですよね。50年売り続けられるような。
夢眠ねむ
ゆめみねむ/2019年、下北沢に予約制の書店「夢眠書店」をオープン。U-NEXTkids「ねむるま えほん」の企画監修・選書を担当。著書に『本の本』(新潮社)『夢眠書店の本棚』(ソウ・スウィート・パブリッシング)など。一児の母。
Web:https://yumemibooks.com/
X:@yumeminemu
Instagram:@yumemibooks
彦坂木版工房
ひこさかもくはんこうぼう/彦坂有紀(右)、もりといずみ(左)の木版工房ユニット。主に食品パッケージのイラストや監修、デザインを行う。絵本作品に『パン どうぞ』(講談社)『できあがり』(福音館書店)など多数。
Web:https://www.hicohan.com/
Instagram:@mrt_izm
撮影/大森忠明 ヘアメイク/光野ひとみ 編集協力/原陽子
