カオスな状態を撮った写真が、思い出させてくれるもの【ママカメラマンのスマホ写真術・7】
育児雑誌などで活躍中のママカメラマン、成田由香利さんによるスマホカメラの写真術。子どもを撮るときのアドバイスを教えていただきます!
写真にうつりこむ背景をあえて片付けないで撮ってみる
みなさん、こんにちは。みなさんは部屋の中で写真を撮ろうとしたときに、フレームの中に、床に転がったおもちゃやソファーの上に置きっ放しになっている通園バッグを見つけると、それらが写り込まないようにささっと片付けたり、片付いているエリアに移動して撮ったりしませんか?
特にSNSで写真をアップする機会が増えた今、何気ない1枚の写真のつもりでも誰に見られるかわからないので、周囲が整っていることを意識しながら撮っている方も多いかもしれません。ですが、今回は、あえて、背景に何も手を加えないありのままの写真も時には撮っておこうというお話をしたいと思います。
私は、もともと整理整頓が苦手なこともあり、息子たちが小さい時は、 仕事と育児のやりくりに余裕がなくて、部屋の状態は いつも嵐が吹き荒れたような状態でした。
なんとかしなくちゃ……、と片付けをしている私と背中合わせの状態で、 ブロックのバケツをひっくり返して、お城を作り始める長男。ふと顔をあげると、何かをつまみ食いしてボロボロと食べこぼしている次男が近くにいて、 私は、長男と接している背中のぬくもりを感じながら、途方に暮れたこともありました。
写真学校で、ドキュメンタリー写真を学んでいたからか、 私の中には「写真はありのままを記録し構成するもの」という意識がずっと頭の片隅にあります。
ブロックが散らかった部屋の写真や、息子がパンツ一丁で洗濯の山と布団の山をまたにかけて踊っている写真など、ありとあらゆるシーンを撮りながら、いつかこのカオスな状態も時間が経てば、家族のその時を表す象徴的な写真になるかもしれないな、と思いを膨らませ、お母さんとしての自分を励ましてきました。
今、昔の子どもの写真を見返してみると、 どの写真も、もちろん記憶に残っているし、子どもたちとのやりとりも思い出すことはできるのですが、 不思議なことに、他人にはあまり見せられないような生活感ありすぎの写真を見ていると、なぜだか封印が解けたみたいに当時の思い出のディテールまでつぶさに思い出すことができるんです。
それはきっと、写りこんでいる「モノ」の多さ=情報量の多さによるところも大きいんだろうなと思います。
特に子どもたちに関係するものだと、たとえば椅子一つとっても、「ああ、この椅子でつかまり立ちしたんだよなあ」といった具合に、思い出があるものです。また、誰かに何かのきっかけでもらったものや、駄々をこねられ仕方なしに買ってあげたもの、クリスマスにサンタがプレゼントしてくれたもの……、などその一つ一つに由来があるものです。
迎え入れた時にはどんなにピカピカでも、傷がついたり、汚れたりしながら暮らしに馴染んだものたち。当時は何気なくそこにあったものでも、後から見返すと、雑に扱われていたそのおもちゃやグッズにすら歴史を感じて、とっても懐かしい気持ちになるものです。 部屋の中で写真を撮るときは、綺麗に残しておきたいものですが、 ありのままの暮らしの状態の写真は、後から見たときに、家族が駆け抜けてきた時間を感じられるので、家族の記録として、時にはあえてそのままの暮らしぶりを残してみることもおすすめしたいと思います。
圧倒的に大きいものとともに撮る時は、子どもを景色の一部にしてみる
これまで連載では、スッキリした背景で撮る際のお話を多くしてきましたが、 今回のように、お部屋の中で撮る場合など、 背景に情報量が多い場所=背景が賑やかな場所で撮影する時や、 お子さんよりも圧倒的に大きいものとともに撮る時は、 お子さんを中心にするより、景色の一部として一歩引いて撮ると、面白い写真になりますよ。スマホカメラのレンズは、空間を広く撮ることができるので、外出先で撮る際も、安全な場所であれば、お子さんから少し離れて撮ってみてくださいね。
今週の一枚
数年前のある晩、閉店間際の近所のお蕎麦屋さんに駆け込みました。 お店には、私たち以外のお客さんはおらず、店員さんたちもせわしなく閉店の準備をしていました。 その雑然とした中で、黙々と食べる子ども達を見ているうちに、そのコントラストが面白いなあと思い、テーブルから離れて一枚だけ撮らせてもらいました。 いつもより数メートル離れただけなのに、 閉店間際のお蕎麦屋さんという景色の中にいる息子たちは、 たくましく大人っぽく見えたことを思い出します。
それではまた。
なりたゆかり/カメラマン。1980年生まれ。秋田県出身。大学在学中に写真にめざめ、夜間の写真学校に通い学ぶ。その後六本木スタジオ勤務を経て、回里純子氏に師事、2008年に独立。小学3年と1年の息子二人の母。主に雑誌の撮影で幅広く活動中。
Instagram @naritayukari_p