『ねえさんの青いヒジャブ』【今日の絵本だより 第173回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『ねえさんの青いヒジャブ』
イブティハージ・ムハンマド&S・K・アリ/文 ハテム・アリ/絵 野坂悦子/訳
BL出版 本体1600円+税
3月6日は「弟の日」、6月6日は「兄の日」、9月6日は「妹の日」、そして一年の最後に登場、12月6日は「姉の日」。
今年の春の新刊、表紙の凛とした横顔に引き寄せられる、『ねえさんの青いヒジャブ』をご紹介します。
今日は、ねえさんのアシヤが初めてヒジャブをつけて学校に行く日。
アシヤが選んだのは、青いヒジャブ。
それはまぶしい海の色、そして晴れた日の空の色。
妹のファイザーもわくわくして、くるくる回りたくなるくらい。
こんなにうれしい特別な日なのに、学校に着いたら、ファイザーに聞こえてくる声がありました。
「あなたのおねえさん、頭になにつけてるの?」
とささやく小さな声。
「そのテーブルクロス、頭からひっぱって、はずしてやろうか!」
とどなる声。
ファイザーは、ママの言葉を思い出します。
「ヒジャブのことを、わかってくれない人もいるでしょう。
でも、いつの日か、うけいれてもらえる。
あなたが、どんな自分になりたいかわかっていれば」
作者のイブティハージ・ムハンマドは、アメリカ女性として初めてヒジャブをつけてリオデジャネイロ・オリンピックに出場し、フェンシング団体戦で銅メダルを獲得した選手。
後に彼女をモデルに、ヒジャブをつけたはじめてのバービー人形も登場しました。
あとがきで彼女は「読者のみなさんは、頭に巻く一枚のスカーフが、これほどの騒ぎを起こすとは思わないでしょう」と語りかけます。
彼女自身、ヒジャブを巻き始めていじめにあったこと、心ない言葉を無視できるようになるまで、長く時間がかかったこと、それは決して簡単ではなかったこと。
お話の中でねえさんのアシヤは、笑われても意地悪をされても、泣いたり怒ったり、声を荒げたりすることはありません。
でもそのアシヤの姿が、こんなに強く心に残るのはなぜでしょう。
見た目の違いで悲しい目にあう世界中の妹達に、この本は、ねえさんからの力強いメッセージ。
そして、私達がまわりの立場にいる時も、その違いを受け入れられるように、こうした絵本で自然に学べたら、触れられたらと思うのです。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。