「言葉が遅いのはあたりまえです」保育のプロ・柴田愛子先生に聞きました【第1回】
2020年2月14日

「言葉が遅いのはあたりまえです」保育のプロ・柴田愛子先生に聞きました【第1回】

横浜にある認可外保育施設「りんごの木」を絵本作家でもある中川ひろたかさんたちと設立し、絵本『けんかのきもち』や『わたしのくつ』などの著者でもある柴田愛子先生。保育者やママ向けのセミナーの講師で全国を飛び回る中、kodomoe webに寄せられるママの3大お悩みに3回にわたって答えてもらいました。第1回は、「言葉が遅い」というお悩みです。

 言葉が出ない我が子を前にしたら、誰だって不安です

ほとんどのママが「初めて抱く子ども」が、我が子です。これまでの生活の中で、子どもの発達について知る機会はなかったのではないでしょうか。だからこそ、我が子に「何かしてあげたい」と一生懸命になって、「子どものことをわかりたい」と思えば思うほど、「わかるためには話してくれないといけない」となる。早く子どもを大人化して、自分がわかるコミュニケーションを取りたい、と。だから大人の挨拶を教えるし、言葉を教えて、要求を話してほしいと思ってしまうんです。

言葉が早いか遅いかで、ママはとても焦っているんだけれど、それは、わからないことが不安なんですよね。ママの思いとしては「子どもが言葉にしてくれたらわかる!」と。ところが、子どもは自分の気持ちをわかったうえで言葉にしているわけではありません。

例えば、泣いているとママが聞きますよね。「お腹空いたの?」「オムツが濡れてるの?」と。でも、子どもには、どれが正解ということも、まだ、よくわからなくて。「ママがそう言うなら、そうかな?」という感じ。少し子どもが大きくなってきて、「んまんま」とか「チューチュー」と言ってくれると、ママは「そうか! お腹が空いているのか!」とわかる。だから「早く言葉を話してほしい」というのは、わかりたい気持ちからなんですよね。子どもはなんとなく「んまんま」と言ってるだけで、実際はお腹が空いているわけではないこともあります。だから、正解を求めなくても本当はいいんです。でも、周りのお子さんと比較して、「うちの子は言葉が遅い」と思うこともあるから、この悩みは深いのでしょう。

 ママの子育ての孤立

今は、少子化ということもあり、子育てが孤立化しているから、自分の価値観そのままに、子どもに言葉を教えている人が多いと思います。それは子どもの成長=「練習すればできるようになる」と思っているから。

ママの中には、一生懸命、寝返りを教えている人がいます。寝返りは、体が「寝返っちゃう」のであって、練習するのは危ないことです。だけど「もう、寝返りをする年齢ですよね。うちの子、まだ寝返りしないんで練習させているんです」ってお話を聞くことがあります。

自分の記憶の中にある「勉強して、練習して、できるようになる」という、ある程度人間ができるようになってからの学習方法を、そのまま赤ちゃんに当てはめてしまう。それは子どもを知らないからであって、しょうがないことではあるんですけれど、人間って、そううまくは成長していかないものですよね。

ママの「どうしてうまくいかないの?」って焦る気持ちのピークが、子どもが2~3歳になった頃。4~5歳になると言葉を使って「そんなことできない」とか、「あっち行って」と言うようになるから。「そうか、そうか。それは、できないのね」ってわかるようになるんです。

 健診での「早い」「遅い」は平均値と比べているだけ

子どもは、立てるようになると、歩きたくなる。さらに、向かっている先にあるものを手にしたいと、思うようにできています。すべての健診と名のつくものは「平均値」が示されているだけなので、それと比べて「早い」「遅い」と判断するのは子どもにとっても、ママにとってもつらいことです。我が子を平均値と比べる必要は全くありません。

2歳でベラベラ話せる子もいれば、4歳でも話さない子も山ほどいる。でも、内面は必ず育っています。言葉が遅くてもそこは「待つ」しかありません。言葉が噴き出したら、一気にあふれてきます。お友達に「それ、貸して」と言葉で伝えられるようになりますから、心配せずにコミュニケーションの可能性をじっくり観察しましょう。待てば待つほど、花は一気に開きます。ママは、機が熟すのを待つことしかできないのです。

我が子を否定することは、ママの自己否定にもつながるので、私が勤めている「りんごの木」では、ママを肯定していく声掛けをしています。話すとホッとする人がママの周りに少なすぎるんです。親に話しても、専門家に相談しても正論が返って来てしまいます。そんなときは、いつでも、なんでも原点にかえれば大丈夫です。子どもも、ママも、パパも機嫌よく生きていればいい! 言葉が早くても、遅くても、温かいごはんと寝床があればいい! ママが専門家にならなくてもいいんです。あなたの横にいられるだけで、子どもはちゃんと育ちますよ。

撮影/繁延あづさ

「子どもの野菜嫌いは問題ではない」保育のプロ・柴田愛子先生に聞きました【第2回】

柴田愛子
しばたあいこ/1948年東京都生まれ。保育者。1982年、横浜市で認可外保育施設「りんごの木」を創設。2歳から5歳までの子どもたちが通う。保育の現場に立ちながら、雑誌、新聞、テレビ、ラジオなどで「子どもに寄り添う」姿勢を伝える。著書に『子育てを楽しむ本』『保育の瞬間』『こどものみかた』他多数。絵本に『けんかのきもち』(日本絵本賞受賞)、『ぜっこう』『ありがとうのきもち』『わたしのくつ』『ざりがにつり』他。
りんごの木 http://www.lares.dti.ne.jp/~ringo/

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