2018年11月13日

『どきどき よぼうちゅうしゃ』【今日の絵本だより 第15回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『どきどき よぼうちゅうしゃ』【今日の絵本だより 第15回】の画像1『どきどき よぼうちゅうしゃ』
小林まさこ/作 おかべりか/絵 あかね書房 本体1300円+税

11月もなかば、「インフルエンザの予防注射、もういった?」という話題が出るシーズンですね。
(毎年、この言葉にどきっとします……。)
『どきどき よぼうちゅうしゃ』は、注射が大嫌いな女の子、りこちゃんのお話です。

今日は、はしかの予防注射の日。
注射器に追いかけられる夢まで見てしまい、りこちゃんは朝からゆううつ。
おでかけ前に
「りこちゃん いいこだもん、ちゅうしゃ しない」
とお母さんに言いますが、お母さんはにっこりと一言、
「だめよ。」

病院で順番を呼ばれ、聴診器を当てられ、お医者さんが
「よしよし、わるい ところは ない。」
「じゃあ、ちゅうしゃ しないの?」
と喜ぶりこちゃんですが、お医者さんは
「よぼうちゅうしゃはね、げんきな ときに するものなんだよ。」
と答えます。
その理由を丁寧にお話してから、お医者さんは
「すぐ おわるからね。」
と、ちくっと注射をします。

「いたいよ!」
注射が終わっても、りこちゃんは全然平気じゃありません。
「ちゅうしゃなんか、ぜーんぶ なくなっちゃえば いい!」
怒って涙を浮かべるりこちゃんに、お医者さんは言います。
「そうだね、ほんとうは、せんせいも ちゅうしゃは きらいだよ。
でもね……。」

注射が苦手な子を予防接種に連れて行くのって、しんどいミッションですよね。
行く前からぐすぐず、やっと連れ出して病院に着いてもべそべそ、診察室で泣き叫び……。
終始こちらが悪者感、いやもう、これは何の修行なんだ、と遠い目になるくらい。
そもそも、心底注射が嫌いな子は、絵本やごほうびではだまされない。
大人がなだめすかしても、打つまでずーっと憂鬱だし、終わっても痛みを忘れるわけじゃない。
この絵本は、そんな子と真摯に向き合って、それでもどうして予防注射は必要なのか、やさしくきちんと伝えてくれるお話です。

先生のお話を聞いたりこちゃんは、注射の大切さが少しだけわかります。
「でも、やっぱり ちゅうしゃは きらい。」
うん、そうだよね。
子どもは自分の気持ちに正直なのが一番。

1986年初版と少し懐かしめの本ですが、全然古さを感じさせません。
子どもの注射苦手問題、ずっと変わらないものですね。
おかべりかさんの生き生きした子どもの絵で、自分のことのように子どもたちに伝わりやすいお話です。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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