2017年6月15日

連載その63 6月のテーマ「ナマケモノの絵本」

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梅雨入り。
なんだかシャキッとしません。
頭がぼんやり、体もだるだる。
仕事も家事もたまるから、よけいに鬱々としてきます。

さて、どうしたものか。。。。。

自分に喝を入れようとしてもダメなときは、
自分みたいな、あるいは自分よりもっと
ダメダメなものに目を向けるといいんじゃないかしら。

理想を追ったって、気持ちが落ち込むばかりですからね。
長年ダメ人間をやってきた、わたしの解決策です。えへん。

そんなわけで、
ちょっとダメから、うんとダメダメまで
共感と安心の?ナマケモノ絵本を読むことにしました。

 

まずはマイルドに
『おさらをあらわなかったおじさん』から。

いや、読み進めると、意外とマイルドじゃないかも。
あらかじめ、潔癖性の方にはあえておすすめしませんが、
クーニーのやさしいユーモアと清潔感のある絵で、
なんてこったな惨状も、楽しめるかと思います。

おじさんは、町はずれの小さな家で一人暮らし。
料理が好きで、食べるのが好き。
ただ、おいしいごはんをおなかいっぱい食べたあとは、動きたくないもの。
ある晩、お皿洗いを明日にまわして、流しに放っておきました。

ところが、次の晩は、もっとおなかいっぱいで、もっとくたくた。
という具合に、毎晩「明日まわし」にしていたら……!

流しがいっぱいになると、テーブルに積み、本棚にのせ、
やがてよごれたお皿が家中を侵食していきます。
そして、使えるお皿がなくなると、今度はなんでも器にしてよそうことに……!!

こういう話は、エスカレートしなくちゃ面白くない。
そして、いったいどうなるの? と、読者が
ハラハラしたところでどう解決するかが肝ですね。
とぼけたおじさんのラッキーな結末、好きだなあ。

いいじゃない、一晩くらい……の心があだになる。
結局、毎日の小さながまんのほうが楽。
ナマケモノって、その法則を忘れがちなの(反省)

実はナマケモノ上級者な話でしたが、原著は1950年作の絵本。
おじさんちのソファや食器など、
ミッドセンチュリーのインテリアも、すてきなの。
おじさんの肖像画が描かれた扉絵も、うっとりする名画です。

osara
『おさらをあらわなかったおじさん』
フィリス・クリジラフスキー/文 バーバラ・クーニー/絵
光吉夏弥/訳 岩波書店 本体780円+税 1978

 

 

こちらは正真正銘ナマケモノ……と言いたいところですが、
『きちょうめんななまけもの』とは、果たして??

みんなの知ってるナマケモノは、体にコケが生えちゃうくらい
じーっと、なまけものでしょ。
この動物園のナマケモノも、一見そうです。
見物客が声をかけても、手をふっても、木にへばりついて動かない。

ところが、暗くなって動物園が閉園になると、目がパッチリ。
人(動物)が変わったように、機敏に動き出すのですよ。
真っ赤なトレーニングウェアに着替えて、激しく体操したり。
動物園の中を「よーいどん」したり。

運動だけではありません。
規律正しく、勉強家で、ストイック。
人間のなまけものとは、似ても似つかない(汗)
そして、ナマケモノである自分自身を貫くにも、ぬかりなく……。

動きにあわせた詩と絵のテンポがゆかい。
知られざるナマケモノの表と裏の顔。
表紙と裏表紙のデザインも、さすが、びしっと決まってます。

なまけものvs.きちょうめん。
うん、この二面性が魅力なんじゃないの。人も絵本も。

namakemono
『きちょうめんななまけもの』
ねじめ正一/詩 村上康成/絵
教育画劇 本体1000円+税 2008

 

さーて、絵本界の「なまけものキング」といえば、
トミー・ナマケンボでしょう。
『ものぐさトミー』は、怠惰なあなた(わたし)に
笑いと教訓と安らぎを与えてくれます。

電気仕掛けの家に住んでいるトミー。
日が昇り、窓のしきいが温まると、
トミーのベッドは自動的に動き出します。

トミーはじっとしたまま、機械がパジャマを脱がせ、
お風呂に入れ、体を洗い、乾燥させます。
さらにトミーの歯を磨き、髪をとかし、服を着せ、
食堂に運んで、決まった分量(過食気味)の食事を口に流し込みます。

おそるべきオール電化!
「電気歯みがきしぼりだし機」やら「自動きがえ装置」やら
「電気食事機」やらナンセンスで大仰な命名の機械に
なされるがままのトミーの図のこっけいなこと。

でも、笑いが止まらなくなるのは、実は後半。
嵐で停電になるんです。
電気仕掛けの家で、1週間眠り続けたトミー。
電気が復旧すると……どうなっちゃうんでしょう?

作者のペーン・デュボアは、アメリカ生まれですが、
多感な少年期をフランスで過ごしました。
ナンセンスな笑いと、文明批判の視線。
原著は1966年の絵本ですが、現代社会にこそ響くものがあるのでは。

思いきり笑った後は、トミー同様、
ちょっと心を入れ替える気になるかも?
ひねりのきいた最後のページ、裏表紙までお見逃しなくね。

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『ものぐさトミー』
ペーン・デュボア/文・絵 松岡享子/訳
岩波書店 本体880円+税 1977

 

 

マリカは、遊ぶの大好き。みんなに親切。
だから、いわゆるナマケモノとはちがうかも。
でも「もしゃもしゃちゃん」なんて呼ばれちゃうのは、
髪をとかさず、歯もみがかず、お風呂にも入らない……
面倒くさがりだからです。

きれいずきでは全然ないけれど、
友達とはなかよしだし、問題ありませんでした。
仮装パーティーで「妖精になりたい」というまではね。

「もしゃもしゃのくせに!」と、みんなに笑われたのが
悲しくて、ひとり家を飛び出し、森の中へ……。

でも、この絵本のすてきなところは、
もしゃもしゃちゃんを否定しないところ。

ちょっとダメなところがあったって、
もしゃもしゃちゃんは、もしゃもしゃちゃん。
折れた木や、おぼれるてんとう虫や、巣から落ちたひなどりを
助けてあげる子どもです。
そのほうが、ずっとだいじだなって、伝わってきます。

笑った子どもたちも、もしゃもしゃちゃんを心配して探しにいくし、
人とちがうからといって、なかまはずれにしたりはしません。
『ラチとらいおん』で知られるマレーク・ベロニカの
健やかな子ども観が息づいています。

まあ、きれいずきにこしたことはないけどね。
そのために、もしゃもしゃ似のハリネズミたちも大活躍しますよ。
うれしくなって、楽しくなって、みんな幸せな大団円。
人形劇の舞台を見るような、明快な画面のハンガリー生まれの絵本です。

mosha
『もしゃもしゃちゃん』
マレーク・ベロニカ/文・絵 みやこうせい/訳
福音館書店 本体1100円+税 2005

 

 

ナマケモノって悪いものではないと思う。
と、開き直ってみるのも、いいかもしれません。
特に子どもはね、
ごろごろなまけて見える間に、
目には見えないなにかを蓄えている気がします。

だから昔話にも、三年寝太郎みたいなお話があるわけで。
あの「ももたろう」も、全国に伝わる昔話を調べてみると、
最初からりっぱに賢く親孝行なお手本みたいな桃太郎と、
最初はゴロゴロ寝太郎タイプの桃太郎と、半々くらいなんですね。

口承文学ですから、どちらが正しいというものではありません。
絵本も両タイプの再話がありますが、
自分にしっくりくるお話と絵を選んでいただくのがよいと思います。

わたしが再話した絵本は、もちろん後者。
なんたって、生命力あふれる、野生児のような伊藤秀男さんの絵なので。
ぐうたら、くっちゃねぶりを、期待以上に表現してくれました。
そうしてためこんだ力を、いざというときに発揮するとすごいんですねー。

桃から生まれる誕生シーンも、必見。
うつうつが吹き飛び、元気が出ます。
ちなみに、きびだんごをお供に半分ずつしかやらないのは、
わたしがケチだからじゃなく、
こういう昔話も各地に伝わっているんですよー。念のため。

momotaro

『ももたろう』
広松由希子/文 伊藤秀男/絵
岩崎書店 本体1300円+税 2009

 

 


ぐうたら礼賛! ナマケモノ万歳!
と、思わぬ方向に着地しそうですが、
お互い無理せず自分を追い詰めず、
梅雨の時期を楽しく乗り越えましょう。

やまない雨はない。
泣きやまない子はいない。
終わらない仕事もない、はずです。

でも5月は仕事が終わらなくて……1回休んですみませんでした。
(おまけのダメダメ見本でした)

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2012-15年ブックスタート選考委員。2013年、2015年BIB国際審査員。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『はしれ、トト!』(日本絵本賞翻訳絵本賞、いずれも文化出版局)、『ローラとつくる あなたのせかい』(BL出版)など。「MOE」本誌でも、世界の絵本を紹介中。
http://www.y-poche.com/

web連載「広松由希子の今月の絵本」

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